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大森簡易裁判所 昭和38年(ハ)215号 判決

原告 山一不動産こと 日尾庄五郎

被告 吉田利男

右訴訟代理人弁護士 今井豊治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し金二一、三〇〇円及びこれに対する昭和三十八年五月十七日以降支払ずみにいたるまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、原告は、宅地建物取引業法にもとづいて山一不動産の名称をもつて東京都知事の登録を受けている宅地建物取引業者である。

二、原告は、昭和三十七年十二月十五日訴外五十嵐四郎より、その所有にかかわる東京都大田区新井宿四丁目一、二九四番の三、宅地一二坪一合九勺の土地につき、他に売却方仲介の依頼を受けたので、その委託にもとづき当時同土地の賃借人であつた被告に対しその買受方を交渉中、被告は原告を除外して直接右訴外人との間に昭和三十八年三月三十日代金四二六、六五〇円(坪当り金三五、〇〇〇円)をもつてする売買契約を締結してしまつた。

三、右の如き売買契約が成立するにいたつたのは、原告が被告に対し土地買受の機縁を与え、かつ、前記訴外人と被告との間に入つて斡旋の労を執つたからであつて、結局原告の媒介に基因したものというべきであるから、原告は被告に対しその報酬を請求する権利がある。

四、しかして、昭和二十八年十月一日東京都告示第九九八号によれば、宅地建物取引業者は、不動産取引の媒介にあたり、依頼者の一方から取引額二〇〇万円以下の場合は最高その取引額の一〇〇分の五の報酬を受け得ることが定められており、しかも、東京都内においては依頼者より右最高限度の報酬額を受けているのが業者間一般の慣行であるから、原告が被告に対し請求し得る前記報酬額は、前記売買代金四二六、六〇〇円の一〇〇分の五にあたる金二一、三〇〇円である。

五、よつて、原告は被告に対し、右金二一、三〇〇円とこれに対する本件支払命令が被告に送達された日の翌日である昭和三十八年五月十七日以降支払ずみにいたるまで民事法定利率年五分の割分による遅延損害金の支払いを求める。

≪以下省略≫

理由

原告が宅地建物取引業法にもとづき、山一不動産の名称をもつて東京都知事の登録を受けている宅地建物取引業者であること、被告が、当時訴外五十嵐四郎より賃借していた同訴外人所有の東京都大田区新井宿四丁目一、二九四番の三、宅地一二坪一合九勺の土地につき、かねてより右訴外人から他に売却方の仲介を依頼されていた原告より昭和三十七年十二月中旬頃その買取り方の交渉を受けたこと、その後右土地につき昭和三十八年三月三十日右訴外人と被告との間に直接売買契約が締結されたことはいづれも当事者間に争いがなく、証人五十嵐カツの証言に徴すると右売買代金は金三六三、〇〇〇円であつたことが認められ、この認定を動かすに足る証拠はない。

そこで、原告は、右売買契約が成立するにいたつたのは、原告が被告に対し土地買受の機縁を与え、かつ、その上斡旋の労を執つたからであつて、結局原告の媒介にもとづくものであるから、原告は被告に対しその報酬請求権がある旨主張するので判断するに、そもそも、いわゆる不動産仲介業者のする土地、建物の売買等の仲介は、いわゆる民事仲立であつて、依頼者との法律関係は民法上の準委任関係にあり、したがつて、当事者に対し報酬を請求し得るのはその仲介に際し特に委託を受けたとか、又はこれと同視し得るような特段の事由の存在を必要とするものと解するを相当とするところ、(もつとも、不動産仲介業者は商法上の商人であるというべきであるから、商法第五五〇条第二項により委託者のほかにその相手方に対しても報酬を請求できるとの解釈もあると考えるが、右規定は、いわゆる商事仲立に関するものであり、しかも、法は商事仲立人に対しては委託者ばかりでなくその相手方に対しても特定の義務を負わしめていることから右の如き規定を設けているものと解せられるから、右商法五五〇条二項の規定を直ちに民事仲立に類推適用することはできないものといわなければならない)、これを本件について見ると、前示土地の売買に関し、被告より原告に対し、その仲介の委託をなしたこと、又はこれと同視し得るような特段の事由のあつたことについては何等これを認め得る証拠はないから、原告は被告に対し本件報酬請求権はないものといわなければならない。

そうだとすると、他の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がなく失当であるからこれを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 須田武治)

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